テレホン法話(平成28年11月)

 私は真言宗豊山派薬師寺住職 中浜照文です。
木仏長者のお話をしたいと思います。 
 むかし、むかし、ある村に一人の長者どんがおりました。
 この長者どんは、たいそうりっぱな金の仏さまを持っていて、ぴかぴかに磨いては人に見せ、自慢ばかりしていました。
 この長者どんの家には、お風呂を焚くのが仕事の、働き者の若者がおりました。ある日、若者は山へ焚き木拾いに行き、仏様によく似た木のぼっくいを見つけたのです。
 若者は、ぼっくいを持ち帰り、仏様だと思って、毎日熱心に拝んでいるのでした。
 若者は、この仏様が、自分を守ってくれているような気がしていたのです。
 ある時、ごますりの奉公人の一人が長者どんに「どうです?金の仏様と木仏で、相撲をとらせてみたらどうでしょう。どうせ、木仏はすぐに投げ飛ばされてしまうでしょうがね。」
二人は顔を見合わせて大笑い。長者どんは若者をよんで「おい、おめえさんの木仏さんとわしの仏様と相撲をとらせてみよう」そして長者どんはおもしろがってこんなことを言ってしまいました。
「もし、わしの金の仏様にお前の木仏さんが勝ったら、わしの家屋敷をぜ~んぶお前に譲って、わしが風呂炊きになろうじゃないか。」
 若者は「こりゃあ、えらいことになっちまった、仏様に相撲をとらせるだなんて」
 皆で土俵を囲み「はっけよい、のこった。」
 不思議なことに、いつの間にか仏様と木仏様は激しくぶつかり合って、押したり引いたり。金の仏様にからだをはずされ、倒れそうになる木仏様。
 若者は心の中で一生懸命お祈りをしていました。
長者どんは、安心しきっています。
しかし、木の仏様は顔を真っ赤にして、頑張ります。じんわりじんわり、少しずつ金の仏様は土俵の反対側へ押し出されていきます。
「あっ、ああ~っ!」長者どんが、泡をふいて倒れてしまいました。
金の仏様が倒されてしまったのです。
「うわ~い、やったあ~、やった!」
こうして、約束通り若者は長者になり、長者どんは、風呂焚きになったのでした。
ある日、風呂焚きをしながら元長者どんは金の仏様に尋ねました。
「なんであん時、木のぼっくいなんかに負けたんだか?」すると、金の仏様は
 「お前は、わしをぴかぴかに磨くだけで少しも信心をしなかった、それで力がでなかったんじゃよ。」
 「なるほど、そんでやんしたか。」
 風呂焚きになった長者どんは、がっくり肩を落として涙をぽろり。
 新しい長者どんは、いつもでも信心を忘れることなく「木仏長者」と呼ばれて、皆から慕われたということです。
 信心を忘れてはいけませんね。

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